東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2398号 判決
被控訴人と渡辺時枝との間に昭和三十一年二月二十一日本件家屋について賃貸借契約が成立し、当時被控訴人は渡辺時枝から、本件家屋は同人が控訴人から賃貸借契約終了により返還を受けている旨説明されていたこと、昭和三十一年三月三日午後三時頃本件家屋を被控訴人に引き渡すために渡辺時枝の夫渡辺実が案内して被控訴人が使用人一名及び家屋の模様替等をするために職人二人を伴い本件家屋の裏の出入口から閉鎖を解いて中に立ち入つたこと、(裏の出入口になんら閉鎖物がなかつた旨の右証人及び本人の各供述は措信しない。この事実は前段の認定による。)渡辺実は被控訴人に本件家屋を引き渡す旨の意思表示をなしてそのまま帰宅したこと、被控訴人は職人らに模様替の工事等について相談や指図をなしたこと、被控訴人が本件家屋に立ち入つたことを知つた控訴人が同夜十時頃来り本件家屋は控訴人が渡辺時枝から賃借して占有しているものであるから即時退去するよう被控訴人に要求したが被控訴人はこれを拒否し両者間に口論が取りかわされ、被控訴人は手伝一名とともに当夜から本件家屋に泊り込んでいること、控訴人は同夜及び四日の夜は使用人二名を本件家屋二階に宿泊させたが、結局被控訴人の制止によつて本件家屋から退去したことが認められる。そうすると渡辺実は被控訴人らが本件家屋に立ち入るとそのまま立ち帰つたのであつて、その際渡辺実が本件家屋を被控訴人に引き渡す旨の意思表示をしたとしても、渡辺実は本件家屋を直接使用管理する等自己の実力的支配の中に収めたのではなく、占有取得の要件たる物の所持を欠いているから、渡辺時枝は夫実を代理人として本件家屋に対する控訴人の占有を侵奪取得したということはできない。かえつて、被控訴人は渡辺時枝から本件家屋を賃借し、同人の夫実の案内で本件家屋に立ち入るとともに家屋の模様替等に着手し、本件家屋に立ち入つて僅か数時間を経たときに控訴人から退去を求められながらこれを拒否して同夜から泊り込んでこれが占拠を続け、もつて本件家屋を自己の実力的支配の中に収めてその占有を取得したのであつて、控訴人が占有していた本件家屋を同人からなんら適法の引渡を受けずに占有したのであるから、被控訴人が控訴人の占有を侵奪したといわねばならない。従つて、被控訴人は占有侵奪者の特定承継人ではない。
(牛山 岡崎 渡辺一)